2018年度研究集会のご案内

ご挨拶

 11月に入り木々もようやく色づいて参りました。例年同じ言葉を繰り返しておりますが、今夏も大変な酷暑で秋の訪れが遅く、また大きな災害の続いた年でもありましたが、会員の皆様にはお元気でご活躍のことと存じます。
 さて研究集会を下記の要領で開催致します。
 今回は、個人研究発表が1つと唐通事出身で後に英語の専門家となった何礼之をめぐってのワークショップを行います。
 どうか奮ってご参加いただきますようお願い申し上げます。
 諸般の事情によりまして、ご案内の送付が遅れましたことをお詫び申し上げます。

中国近世語学会会長 内田慶市
2018年11月14日

日時・場所

日時:12月8日(土)午後1時より
場所:愛知大学東京事務所
愛知大学東京事務所  銀座線虎ノ門駅直結〔11〕より徒歩2分
東京都千代田区霞が関3-2-1 霞が関コモンゲート西館37階

プログラム及び要旨

1.個人研究発表


竹越 孝(神戸市外国語大学) (13:00~13:45)
『一百条』系漢語鈔本二種の言語

 筆者は「『一百条』系の漢語鈔本について」(『汲古』第59号,2011)において、『清語要指』(東京大学東洋文化研究所蔵)、『清文指要漢語』(天理大学附属天理図書館蔵)という年代不詳の鈔本二種を紹介するとともに、その套話(段落)配列がいずれも『一百条』(Tanggū Meyen;1750?)に非常に近いことから、この種の漢語鈔本は、満洲語のみが記された『一百条』と本来セットになって扱われていたものではないかと推定した。本発表では、二種の漢語鈔本における語彙語法面の特徴について述べる。
 二種のうち、『清語要指』の言語は概ね『清文指要』(1789)等と大差のない状態を反映していると考えられるのに対し、『清文指要漢語』の言語は興味深い点が多く、尾崎実・内田慶市両氏が取り挙げた“你na”(=“你納”;naの部分満洲文字)を始め、“咱的”(=“怎的”)、“這/那”(=“這麼/那麼”)、“不咂”(=“不咱”)など、数々の特徴的な語彙や表記が見られる。本発表では、これらを他の文献と比較した上で、清代北京語文献における位置づけを試みたい。

2.ワークショップ:明治維新期の唐通事による西書翻訳 何礼之『世渡の杖』を中心に (14:00~17:00)

 唐通事は明治維新期に中国語通訳として長崎で活躍したばかりでなく、さらに英語学習も命じられており、政府の翻訳官としてアメリカ、イギリスと日本との外交交渉にも関与した。なかでも、何礼之は代表的な人物の一人であり、彼自身が英語学習で研鑽すると同時に、西洋の書物の翻訳し、日本の近代化に大きな貢献をした。何礼之の代表的な翻訳にウェーランドThe Elements of Political Economyの邦訳『世渡の杖』があるが、彼は他の洋学者と異なり、唐通事の家系出身であることから、その訳著には多数の非日本語と思しき翻訳語が見られる。本ワークショプでは、幕末から明治期にかけての英学、何礼之の人物像から英語学習、来日アメリカ人宣教師との交流など、その翻訳の背景に関わること、『世渡の杖』に見られる翻訳語(生活に関する語彙、唐通事の特徴的な語彙)に関わることについて紹介し、唐通事・何礼之の例を手がかりに、明治期の英語から日本語への翻訳と中国語の役割に関する研究の可能性について討論したい。


1)内田 慶市(関西大学)
 明治維新期の英語学習と何礼之について

 明治維新期に西書翻訳に従事したのが、殆どがヨーロッパ留学経験組の洋学者出会ったために、これまでの研究では唐通事など国内学習組の存在と貢献が重視されて来なかった。明治維新期に政治・経済・法律等の分野の西書を翻訳した何礼之も例外ではない。
 本報告では、蘭通詞・唐通事出身者など国内学習組がどのような環境や教材で英語を身につけていったのか、中国における英語学習の状況とも比較しつつ、長崎を中心に、幕末から明治維新期にかけての日本における英語学習の概況について報告する。


2)朱 鳳(京都ノートルダム女子大学)
 何礼之と宣教師の交流について

 今までの何礼之に関する研究は、日本国内の資料が多く使われていたが、今回はアメリカ側の資料も加え、何礼之及び唐通事と宣教師の交流の詳細を見いだしたい。
本発表は、特に唐通事の一人である何礼之(が のりゆき)に焦点をあて、彼と長崎に滞在していた宣教師(Macgowan、Verbeckら)との交流、特に宣教師のもとで英語学習した詳細な史実及びその学習成果を考察する。


3)塩山 正純(愛知大学)
 『世渡の杖』の翻訳の概要と背景

 アメリカ人牧師ウェーランドによる経済学入門書The Elements of Political Economyの全訳としては福沢諭吉、小幡篤次郎の『英氏経済論』がつとに有名であるが、それ以前にも福地源一郎の『官版会社弁』(明治4)、何礼之の『世渡の杖』(明治5–7)が抄訳として存在した。『世渡の杖』は、先行研究の評伝等によって、唐通事出身の何礼之が卓越した英語力を以て訳出したと評価され、専門書というよりは、一般読者をも対象とした啓蒙書としての役割も企図されていたと指摘される。
 本報告は『英氏経済論』『官版会社弁』との比較も通して、『世渡の杖』の翻訳の背景、翻訳の概要について紹介する。


4)伊伏 啓子(北陸大学)
 『世渡の杖』の翻訳–生活用語を中心に

 『世渡の杖』は唐通詞の何礼之がアメリカ人牧師Francis Waylandの経済入門書Political Economyを抄訳したものである。明治初期に出版された。翻訳者の何礼之は唐通事であり、時代の要求に即して英語も習得した人物である。Political Economyの翻訳書はさらに2種類(福沢諭吉、小幡篤次郎全訳本『英氏経済論』,福地源一郎『官版會社弁』)あるが、『世渡の杖』とそれらの訳語には違いが見られると考えられる。
 本報告は『世渡の杖』に見られる生活用語に注目し、その翻訳語の特徴を考察する。


5)奥村佳代子(関西大学)
 『世渡の杖』の翻訳–唐話資料との比較

 唐通事出身の何礼之は洋書翻訳家として日本の近代化に貢献した。アメリカ人牧師Francis WaylandのPolitical Economyには福沢諭吉と小幡篤次郎による『英氏経済論』、福地源一郎による『官版会社弁』、そして何礼之による『世渡の杖』の日本語訳がある。
 何礼之の翻訳には唐通事という出自との関連性が見られるのではないかという立場から、基礎作業の経過を報告する。

*出欠を12月5日までにご返送ください。
*発表者の方へ、レジュメは各自でご用意お願いいたします。
*終了後に懇親会を予定しております。