中国近世語学会2022年度研究集会報告

ご挨拶

 ようやく春めいて参りましたこの頃です。コロナもどうやら5類移行で「ニュー日常」に戻りつつあるようです。
 さて、暮れに開催しました2022年度研究集会のご報告を遅ればせながらお送り致します。今回は中検本部をお借りしてハイブリット形式で行いましたが、オンライン・オフライン併せて30数名の参加があり、様々な領域からの発表が5本行われました。
 また、発表後には臨時総会も開催され理事選挙開票結果及び会則改正の報告がなされました。従いまして、2023年度の研究総会は新しい会長の下で開催されるはずです。
 私が前会長の佐藤晴彦先生から会長職を引き受けましたのが2015年ですが、それから随分長い年月が経ってしまいました。今後は一会員として新会長の下での本学会の更なる発展を期待しております。

中国近世語学会会長 内田慶市
2023年3月2日

2022年度中国近世語学会研究集会
開催日時:2022年12月10日(土)10:00 – 17:00
開催方式:一般財団法人 日本中国語検定協会本部+Zoomミーティング

研究発表報告

1)罗存德汉字知识的考察
楊一鳴(関西大学大学院)

本次发表主要利用了罗存德(Wilhelm Lobscheid)的《英华字典》、《汉语语法》(Grammar of the Chinese Language)等材料,对已有研究进行简单回顾,并对其中几个问题提出疑问与看法,包括词类的命名与分类,《汉语语法》与《汉语语法札记》(Notices on Chinese Grammar)的借鉴关系再考。同时从“汉语语言性质”、“汉字特征”、“汉字罗马化”三个方面,对罗存德汉语观、汉字观进行了考察。罗存德认为汉语具有单音节性,同时意识到了这一说法的局限。汉字研究方面他用“部首”加“本字”的方法拆分汉字,部首是汉字中最小的构成单位,这一理论很可能来源于马士曼、卫三畏。并且他认为汉字罗马化是中国社会教育水平不高的一个解决办法,最理想的拼音方案是莱普修斯(Karl Richard Lepsius)教授的方案。
在点评环节,参会的学者点评到,词类的分析需要更多的考虑,例如量词方面,首先将量词作为一类使用的是在高第丕的《文学书官话》中。此外关于莱普修斯的拼音法,学界内几乎没有学者提到,还有一些材料的细致研究还不够,例如Select Phrases and Reading Lessons in the Canton Dialect,这些问题还有待进一步考察与研究。

2)書院生が『華語萃編』初集で学んだ「北京官話」について
塩山正純(愛知大学)

 『華語萃編』は戦前の上海にあった日本の高等教育機関である東亜同文書院が編纂し、実際に同学院の中国語教育で使用された中国語会話教科書である。『華語萃編』は1916年初版の初集から1933年初版の四集まで編まれたが、初集は凡例冒頭に「本書初集は東亜同文書院第一学年用北京官話教科書として編纂せるもの」と記すように、編者の謂うところの「北京官話」を1年次生が学ぶ教材として用いられたものである。『華語萃編』に関する先行研究には、初集の各版本間の関係については石田卓生(2019)、二集・三集の成立のプロセスについては松田かの子(2001)などがあるが、いずれもテキストの中国語の特徴に関しては考察されていない。
 本報告では、『華語萃編』のうち一年次生用の教科書である初集の課文に見られる構成上の特徴、課文に記述された中国語の特徴について考察した結果の概要を紹介した。『華語萃編』初集の課文は、太田(1969)が挙げる北京語の7つの特徴を有し、人称代詞についても一人称代名詞複数の包括・非包括の使い分けがある。二人称の“您納”の用例も見られ、どちらかというと四角四面ではないソフトな敬意を表す傾向があり、大多数は句末で用いられている。同じく東亜同文書院が編纂し、より実践的志向が強い『北京官話旅行用語』の会話文には成語や多字句が多用されるのに比べて、『華語萃編』初集には成語や多字句がほとんど見られないのは、一年次生用ゆえのことか。また、時点・時量の表現に関しては新旧の表現を併用しており、当時はまだいずれの表現も同等に通用していたであろうことが伺える。このほか、“皮酒”など外来語の特徴的な音訳語の例も見られる。
 また、質疑応答の中でも指摘があったように、課文の典拠を特定することもその言語的特徴を探る上で重要な作業であることから、上記の石田卓生(2019)が提示した『華語萃編』以前の教科書からの継承関係をもとにルーツを特定する作業に着手したい。

3)『清文指要』『続編兼漢清文指要』の成書過程
竹越孝(神戸市外国語大学)

 『清文指要』三巻、『続編兼漢清文指要』二巻は、全100話からなる清代の満洲語会話書『一百條』(Tanggū Meyen,1750頃刊?)を改編して満漢合璧の形式としたものである。『清文指要』の上巻は「字音指要」と称する発音概説で、中巻と下巻に25話ずつ、『続編』では上巻と下巻に25話ずつという構成を持つ。現在一般に知られている版本は、乾隆54年(1789)の雙峯閣刊本(多く『続編』のみ)と、嘉慶14年(1809)の三槐堂重刊本及び大酉堂重刊本(『指要』『続編』とも)であるが、フランス国立図書館には書肆・年代ともに不明の刊本(Mandchou 57,『指要』のみ)が存在し、本発表ではこれを手掛かりとして二書の成書過程を探った。
 発表では、現存諸本に少なくとも二種類の書体が見られ、その版面の精確さから、『指要』では書肆不明本、『続編』では雙峯閣本が最もオリジナルに近い存在と考えられること、『指要』と『続編』では同じ満洲語に対する中国語の使用語彙に違いがあることを指摘した。その帰結として想定される成書過程は次の通りである。まず、ある編者が『一百条』から50話を選んで満漢合璧の形式に改めて巻頭に「兼漢字音指要」を付し、『兼漢清文指要』の名で刊行した。これが書肆不明本である。別の編者が残った50話を同じ形式にし『続編兼漢清文指要』の名で刊行した。これが雙峯閣本である。雙峯閣は『指要』を書肆不明本に基づいて重刊し、正続100話の形で売り出すこともあった。その後、三槐堂・大酉堂の二書肆は全体を重刊し、序文を加えて刊行した。

4)『生意襍話』初探
内田慶市(関西大学東西学術研所研究員)

 本発表では、先ず『生意襍話』の現在確認されている5カ所の蔵版について概観した。特に正本と思われるものは100葉100篇からなる明治大学蔵本であるが、序文の書かれた年号はあるが、いつ刊行されたものかについての記載はない。また、出版社も不明である。これに関しては、夙に魚返善雄が『中国語雑誌』に述べているように、上海で限定出版のような形で刊行されたものであると考えられる。関西大学鱒澤文庫蔵写本は日清貿易研究所出身の橋口吉之助が教授したものをその学生の長田眞彌が写したものである。増田文庫蔵のものは明治大学本と同じであるが、こちらは60篇までである。北九州市立中央図書館蔵のものはこれもやはり日清貿易研究所で学んだ香月(かづき=これは岩本真理氏のご指教による)梅外の手になるものである。訳註は基本的には明治大学本を踏襲しているが、香月自身の注も見える。なお、香月本は彼が帰国後、晩年、福岡で中国語教育にたずさわっていた時代のものと考えられる。また、北九州市立中央図書館には香月の書写本として『清國通俗文』『生意筋絡抄本』も収められている。
 『生意襍話』の言語については、北京語であることは疑いないが、他にも、満洲語やモンゴル語由来の語なども用いられている。すでに、この本の全語彙索引は作成済みであるが、やはり、この本を単独で取り上げて論ずるのではなく、御幡雅文の『華語跬歩』を始めとする他の一連の著作全体で考えるべきものであると考えているが、今後の課題である。

5)太湖理民府の光緒二年裁判档案とその言語について
落合守和(東京都立大学客員教授)

 伝統中国の裁判では,本人が認めた事実に基づき案件の審査が進められる。本人が事実と認めない場合は処罰されることはないと言われる。中央・地方の衙門では,届け出られた案件の一つひとつについて,たくさんの文書が作成され(その多くは失われるが)その一部は現在に伝えられている。夫馬進1983・滋賀秀三1984に代表される中国法制史の研究では制度面に重きを置く精度の高い研究が蓄積されているが,これら裁判の実務文書そのものにもとづく実証研究は,管見の限りこれまで多くはなかった。しかし,COVID-19流行に先立つ2019年の初めに山本2019と奥村2019があいついで発表され,研究の新局面が開かれた。これらに触発され,報告者は,日本の国会図書館(NDL)東京本館所蔵太湖理民府档案と北京の第一歴史档案館所蔵順天府档案等の調査(前者2019-2022及び後者1999-2019)により得られた知見をもとに,中国の中央・地方政府の裁判供述書の実例を一つずつ拾う作業を続けている。
ここでは,日本に伝えられた太湖理民府档案から次の裁判供述書原件の画像を紹介し,その言語について初歩的な検討を加えたい。裁判の供述書は《供詞》と呼ばれる。
太湖理民府档案第29冊「太湖理民府/光緒二年(1875)五月/一宗悪棍肆横等事巻/據封員葉長藻稟悪棍周錦祥打毀卓櫈等情」
【参考文献】
山本英史 2019 清代档案史料,『中国近世法制史料読解ハンドブック』,山本英史編,東京:公益社団法人東洋文庫,pp.197-237,2019年3月,(「非売品」,全文デジタル公開。)
奥村佳代子2019 近世東アジアにおける口語体中国語―-中国・朝鮮,『近世東アジアにおける口語中国語文の研究』(関西大学東西学術研究所研究叢刊58),吹田:関西大学東西学術研究所,pp.1-63


臨時総会報告

理事選挙の開票結果の報告があり、以下の6名の会員が新理事として選出された。
(五十音順、敬称略)
石崎博志(関西大学)、奥村佳代子(関西大学)、塩山正純(愛知大学)、竹越孝(神戸市外国語大学)、千葉謙悟(中央大学)、山田忠司(文教大学)

◇◆中国近世語学会2023年度研究総会開催のお知らせ◆◇

日時:6月4日(日)
場所:関西大学以文館セミナースペース+オンライン(Zoomミーティング)
内容:個人研究発表、総会など
*Mårten Söderblom Saarela氏(台湾中央研究院)による講演が予定されています。

 個人研究発表者を募集いたします。4月10日(月)までに、近世語学会ウェブサイトの「お問い合わせ」から事務局にご連絡ください。