2021年度研究総会のご案内

ごあいさつ

 「来年の今ごろは元に戻っているはずだ…」と、多くの人が希望的に思っていたコロナ禍は、まだ収まる気配は見えません。早くこのような制限の多い生活から解放されたいと思ういっぽうで、こうした生活に慣れてしまっているということに恐ろしさを覚えることもあります。
 昨年は開催することができなかった研究総会を、5月29日に開催いたします。
 先のニューズレターでは、会場を関西大学千里山キャンパス以文館4階セミナースペースと予告しておりましたが、大阪及び各地で緊急事態宣言が発令されておりますことを考慮しまして、オンライン開催のみとさせていただきますことを、どうぞご了承ください。
 開催形式はどうあれ、皆様のご参加と積極的な討論を期待しております。

中国近世語学会会長 内田慶市
2021年5月10日

日時:2021年5月29日(土)10:30開始
場所:Zoomミーティング(学会員の方にはPDFデータをお送りしていますので、そちらを参照ください。非会員の方で参加されたい方はお問い合わせからご連絡お願いします。)

プログラム
午前の部 10:30〜12:00
10:30〜11:15
奥村佳代子(関西大学)
「清末訪中日本人商人向け会話教科書の北京官話」

11:15〜12:00
塩山 正純(愛知大学)
「東亜同文書院生のフィールドワークのための中国語―『北京官話旅行用語』の記述を例に―」

12:00〜13:30 休憩

午後の部 13:30〜15:40
13:30〜14:15
萩原  亮(神戸市外国語大学大学院)
「イサーイヤ著『簡明中国語文法』について」

14:15〜15:00
竹越  孝(神戸市外国語大学)
「『庸言知旨』の五巻本と二巻本」

15:00〜15:10 休憩

15:10〜15:40
総会
1.役員について
2.会計報告
3.2021年度研究集会について
4.その他

閉会


研究発表要旨
1)奥村佳代子:清末訪中日本人商人向け会話教科書の北京官話
 明治時代以降、日本人にとって中国の官話とは北京官話を指すものとなり、北京官話を学ぶための教科書や学習書が編纂、出版されるようになった。清末の北京を舞台とした日本人商人のための商業会話書は、商業取引に適切な語句を学ぶために作られたものではあるが、北京官話を学ぶためのものでもあった。
 『日清商業作文及会話』(中島錦一郎著、1907年)は、第1編(数字や商用単語)、第2編(口上書の書式や広告文例)、第3編商業作文、第4編(書式と文例)、第5編(商業用会話、交談)の五つの部分から構成され、作文も含めて中国語にはすべてカタカナで発音が付されている。『北京官話 日清商業会話』(実用日清商業会話)(足立忠八郎、1909年)は、「単辞」「入門」「会話」の三つの部分から構成され、それぞれ中国語にはカタカナで発音が示され、四声、有気無気の区別が漢字の四隅に記号で示されている。
 今回の発表では上の教科書2冊を取り上げ、特に会話部分の語彙を整理し、北京官話資料として初歩的な調査を行った結果を報告したい。

2)塩山正純:東亜同文書院生のフィールドワークのための中国語―『北京官話旅行用語』の記述を例に―
 東亜同文書院の書院生たちは「中国」をフィールドとする学業の集大成として中国とその周縁地域における大調査旅行(「大旅行」)に出かけた。同書院における中国語教育は、上海移転後、時代の趨勢によって南京官話から北京官話にシフトし、『華語萃編』などのテキストによって教授されたが、「大旅行」に臨む書院生にとっては「大旅行」中に想定される様々な場面での使用が想定される中国語の修得が重要な課題であった。中国語教育は「大旅行」と密接にリンクしており、書院生は事前に内容を「大旅行」に特化した『北京官話旅行用語』で学習して中国各地に出かけた。同書は具体的な場面を想定した全32課の会話テキストで、今泉潤太郎(1995)が「各課文すべて旅行者(書院生)が各地で遭遇する場面での様々な相手との問答を想定してつくられたものである」と指摘するように、船のチャーター、農民との会話、ガイドを雇う、鉄道の切符を買う、旅館に泊まる、自炊、地方役人との面会などのリアルな場面設定による実践的な会話で構成されている。本報告では、各場面と内容を表す語句の特徴とともに、「北京官話」と銘打つ同書に記される児化、人称代詞、文末の助詞、時間の表現その他の特徴について取り上げたい。

3)萩原 亮:イサーイヤ著『簡明中国語文法』について
 本発表では、ロシア正教会北京伝道団の宣教師イサーイヤの手になる中国語文法書、『Краткая Китайская Грамматика(簡明中国語文法)』について紹介し、そこに反映され
た中国語の諸特徴について論じる。
 イサーイヤ(本名イワン・ポリキン、1833-1871)は第14次及び第15次北京伝道団に所属し、1858-1864年、1865-1871年の2度にわたって北京に滞在した。滞在中に中国語を習得したのち、正教関連文献の中国語訳、ロシア人向けの中国語文法書・辞書類の編纂、儒教経典のロシア語訳などを行ったとされる。本発表において取り上げる『簡明中国語文法』は東洋文庫蔵、不分巻一冊、1906年刊行の第三版である。全50頁で、1-45頁が本文、45-50頁が附録となっている。本文部分は主に中国語の虚詞に関する解説であり、84のトピックに分けられている。附録は主に度量衡の説明である。全書を通じて、中国語の例文はまず漢字で記され、その後にキリル文字で発音が示される。キリル文字で音写された中国語に声調の表示はないものの、強さアクセントが記されている。
 『簡明中国語文法』の中で描写される中国語は、19世紀後半の北京方言と見てよい。本発表では、この書物の概要を紹介するとともに、そこに反映された中国語について、特徴的な現象を取り上げて初歩的な考察を行いたい。

4)竹越 孝:『庸言知旨』の五巻本と二巻本
 宜興(ihing,1747-1809)の『庸言知旨』(an i gisun de amtan be sara bithe)は清代における満漢合璧会話教材の一つで、序によればその成立は嘉慶7年(1802)である。通行のテキストは、嘉慶24年(1819)に査清阿(jacingga)が刊刻したものを民国年間に謝国楨(1901-1982)が印行させた二巻の刊本であるが、大阪大学図書館には、より古い姿を伝えると思われる五巻の鈔本が存在する。
全体としての段落総数は、五巻本が325則であるのに対し、二巻本では242則、五巻本の巻二にあたる部分を二巻本は丸ごと欠く。また、五巻本で巻五にあたる「清語元音」も二巻本には存在しない。宜興が序において「凡三百餘則編為一帙」と言い、「以清語元音一卷附而綴之」と記す以上、五巻本の方が本来の姿に近いことは明らかである。五巻本における序文末尾の記載が「嘉慶歳次壬戌(1802)仲春宗室桂圃宜興序」であるのに対し、二巻本にはそれに加えて「嘉慶歳次己卯(1819)初夏芸圃査清阿刊訂」とあり、査清阿の行った「訂」とは二巻への改編であったことが窺われる。
 本発表では、二巻本へ改編される過程で削られた五巻本のエピソードにどのようなものがあるのか、また「清語元音」にはどのような内容が記されているかを紹介するとともに、そこから見える査清阿の改編の意図を推測してみたい。


年会費納入のお願い
今年度(2021年度)会費(一般5,000円、院生・学部生3,000円)を、郵便振替にてお納めください。昨年度分までの未納のある方は、年度を明記のうえ、併せてお納めください。
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郵便振替 口座番号:00980-6-119965 口座名称:中国近世語学会