2022 年度研究集会のご案内

ご挨拶

 長引いていた暑さも終わり、ようやくこの季節らしい気候になってまいりました。
 コロナの影響はまだありますし、インフルエンザの流行も気になるところで、気の抜けない毎日ですが、以前の日常を取り戻そうとする動きも活発になってきているようです。
 本研究集会は、研究総会に続き対面とZoomミーティングによるハイブリッド開催とし、5人の会員による研究発表と臨時総会を予定しております。恒例化しておりました小特集は昨年に引き続き一時休止となりますが、来年度は、個人研究発表と小特集の二本立てでの開催を目指したいと思っており、会員各位からの発案を期待しています。
 研究集会当日は、会場で、あるいはオンラインでお会いできることを楽しみにしております。

中国近世語学会会長 内田 慶市
2022年11月13日

日時・場所

日時:2022年12月10日(土) 10:00 開始
場所:一般財団法人日本中国語検定協会(東京都中央区東日本橋2-28-5 協和ビル)
&Zoomによるハイブリット形式(ZOOMで参加希望の方は研究会の案内メールもしくは研究会事務局までお問い合わせください)

プログラム及び要旨

研究発表(10:00 – 16:00)

10:00 – 11:00
楊一鳴(関西大学大学院)
「罗存德汉字知识的考察」

11:00 – 12:00
塩山 正純(愛知大学)
「書院生が『華語萃編』初集で学んだ「北京官話」について」

休憩 12:00 – 13:00

13:00 – 14:00
竹越 孝(神戸市外国語大学)
「『清文指要』『続編兼漢清文指要』の成書過程」

14:00 – 15:00
内田 慶市(関西大学東西学術研究所研究員)
「『生意雑話』初探」

15:00 – 16:00
落合 守和(東京都立大学客員教授)
「太湖理民府の光緒二年裁判档案とその言語について」

休憩 16:00 – 16:15

臨時総会 16:15 – 17:15
1.理事選挙開票結果について
2.会則改正について
3.その他

閉会


発表要旨

1)楊 一鳴:罗存德汉字知识的考察
德国籍传教士罗存德(Wilhelm Lobscheid, 1822-1893)是西洋传教史、西洋汉语研究史上的一位重要人物。他于1848年来到香港,精通多国语言,他的一生著作、文章颇丰,《英华字典》被视为他的代表作,同时也为近代中国、日本的辞典编纂带来了巨大影响。
学界关于罗存德的研究已经有了不少,从罗存德的生平到《英华字典》的成立,都有了较为细致的研究。关于罗存德的汉语研究方面,现有研究主要集中在词类、句法等问题,相关汉字的部分则较少被人提到,事实上罗存德在汉字方面的理解也十分独特,具有一定的考察价值。本文利用了罗存德的《英华字典》,《汉语语法》(Grammar of the Chinese Language)等文献材料,对罗存德的汉字知识进行了考察。笔者首先对先行研究中的部分内容提出了疑问,对不完善的地方进行了补充。并且着重考察了他对汉字的特征、性质六书、汉字罗马化等问题上的看法。同时通过比较其他传教士的文章著作,对比了他们不同的研究法,并对其汉字知识来源提出了猜想。

2)塩山 正純:書院生が『華語萃編』初集で学んだ「北京官話」について
『華語萃編』は戦前の上海にあった日本の高等教育機関である東亜同文書院が編纂し、実際に同学院の中国語教育で使用された中国語会話教科書である。『華語萃編』は初集から四集まであり、初集は凡例冒頭に「本書初集は東亜同文書院第一学年用北京官話教科書として編纂せるもの」と記しているように、1年次生に対して「北京官話」を教える教材として用いられたものである。『華語萃編』に関する先行研究には、二集・三集の成立については松田かの子(2001)、初集の版本間の関係については石田卓生(2019)などがある。『華語萃編』初集の課文を大まかに見たところ、太田(1969)が挙げる7つの特徴があり、一人称代名詞複数の包括・非包括の使い分けもあり、二人称の“您納”の用例も見られ、また“皮酒”など外来語の特徴的な音訳語の例も見られる。本報告では、『華語萃編』初集の課文で東亜同文書院生が学んだ「北京官話」の特徴について初歩的な考察の結果を紹介したい。

3)竹越 孝:『清文指要』『続編兼漢清文指要』の成書過程
『清文指要』三巻、『続編兼漢清文指要』二巻は、全100話からなる清代の満洲語会話書『一百條』(Tanggū Meyen,1750頃刊?)を改編して満漢合璧の形式としたものである。『清文指要』の上巻は「字音指要」と称する発音概説で、中巻と下巻に25話ずつ、『続編』では上巻と下巻に25話ずつという構成を持つ。現在一般に知られている版本は、乾隆54年(1789)の雙峯閣刊本(多く『続編』のみ)と、嘉慶14年(1809)の三槐堂重刊本及び大酉堂重刊本(『指要』『続編』とも)であるが、フランス国立図書館には書肆・年代ともに不明の刊本(Mandchou 57,『指要』のみ)が存在し、同書の成書過程を探る上でいくつかの手がかりを与えてくれる。
 現存諸本の版面を比較した場合に、『指要』では書肆不明本、『続編』では雙峯閣本が最も鮮明かつ精確であること、『指要』と『続編』では同じ満洲語に対する中国語の使用語彙に違いがあることなどから考えて、我々は次のような成書過程を描くことができる。まず、ある編者が『一百条』から50話を選んで満漢合璧の形式に改め『清文指要』の名で刊行したものが書肆不明本であり、別の編者が残った50話を同じ形式にし『続編』の名で刊行したものが雙峯閣本である。雙峯閣は『指要』を重刊し正続100話の形で売り出すこともあった。その後、全体を重刊し序文を加えて刊行したのが三槐堂・大酉堂の二書肆である。

4)内田 慶市:『生意雑話』初探
 御幡雅文の手になる『生意雑話』については、これまでほとんど研究が見られない。そもそも、私が最初に見たのは関西大学鱒澤文庫に収められた手書きのものであり、ほどなく増田文庫にも活字本が収められているのを知った。北九州市立図書館に収められているものに関する報告がいくつかあり、最近更に明治大学にも収蔵されていることが分かっている。それぞれ、収められている内容は多い少ないがあるが、100篇が本来の篇数であろうと考えられる。今回は、それらの書誌情報に加え、『生意雑話』の言語的特徴についても若干触れる予定である。

5)落合 守和:太湖理民府の光緒二年裁判档案とその言語について
伝統中国の裁判では、本人が認めた事実に基づき案件の審査が進められる。本人が事実と認めない場合は処罰されることはないと言われる。中央・地方の衙門では、届け出られた案件の一つひとつについて、たくさんの文書が作成され(その多くは失われるが)その一部は現在に伝えられている。夫馬進1983・滋賀秀三1984に代表される中国法制史の研究では制度面に重きを置く精度の高い研究が蓄積されているが、これら裁判の実務文書そのものにもとづく実証研究は、管見の限りこれまで多くはなかった。しかし、COVID19流行に先立つ2019年の初めに山本2019と奥村2019があいついで発表され、研究の新局面が開かれた。これらに触発され、報告者は、日本の国会図書館(NDL)東京本館所蔵太湖理民府档案と北京の第一歴史档案館所蔵順天府档案等の調査(前者2019-2022及び後者1999-2019)により得られた知見をもとに、中国の中央・地方政府の裁判供述書の実例を一つずつ拾う作業を続けている。
ここでは、日本に伝えられた太湖理民府档案から次の裁判供述書原件の画像を紹介し、その言語について初歩的な検討を加えたい。裁判の供述書は《供詞》と呼ばれる。
太湖理民府档案第29冊「太湖理民府/光緒二年(1875)五月/一宗悪棍肆横等事巻/據封員葉長藻稟悪棍周錦祥打毀卓櫈等情」