2023度中国近世語学会研究総会報告

ご挨拶

 まだ、中国との往来にはビザ取得の必要があるとは言え、かなり平常に近づきつつあると言えるかと思います。
 さて、本学会も新執行部のもと、活動を開始いたしました。去る6月4日は研究総会をハイブリッド方式で実施いたしました。Mårten Söderblom Saarela 先生のご講演の他、4つの研究発表があり、活発な議論がなされました。機関誌『中国語研究』にも多くの投稿があり、現在編集作業が行われております。11月25日に研究集会を予定しております。会員各位におかれましてはこちらにも奮って研究発表ご応募ください。また学会活動の活性化のためのご意見、ご要望などあれば是非お寄せください。

中国近世語学会会長 山田忠司
2023年8月14日

2023年度中国近世語学会研究総会
日時:6月4日(日)10:00 ~ 17:00
場所:関西大学千里山キャンパス+Zoomミーティング

研究発表報告
『崎港聞見録』再考
岩本真理(大阪市立大学)

内閣文庫に所蔵される『崎港聞見録』は徳川幕府伝来本である。その記述の中で、萬壽節を雍正帝の誕生日としており、その在位期(1722-1735)中の成立を窺わせる。また実在の人物、向井元仲(第5代長崎聖堂祭酒、書物改め役を兼ねる)の名を挙げることに着目すると、第5代祭酒の在任期間(1727-1765)に照らし、成書は1727年から1735年と推定できる。ただし、現在伝わる写本が、この時期の書写によるかは判断できない。注目すべきは、『華夷変態』(唐船風説書)の記載がほぼ途絶えたこの時期に、情報を入手する手段として、幕府側が積極的に唐人からの聞き書きをおこない、その結果、複数の写本資料が現存していることである。本資料も、この流れの中で、その価値や限界を判断すべきである。従来看過されがちであった唐通事の本務、すなわち幕府の「通訳官」としての職務を、断片的ながらも反映した資料であるとはいえよう。

イサーイヤ著『簡明中国語文法』第3版と『露中辞典』増訂版序の関係について
萩原 亮(神戸市外国語大学)

本発表では、ロシア正教会北京伝道団の宣教師イサーイヤ(1833-1871)の手になる北京語文法書、Краткая китайская грамматика (『簡明中国語文法』)の成立について、同じ著者による北京語辞書、Русско-Китайский Словарь разговорного языка (Пекинского наречия)(『露中辞典』)との関係性を中心に考察した。『簡明中国語文法』は管見の限り、1906年刊行の第3版のみが現存するが、1870年刊行の『露中辞典』増訂版に付された序文を確認すると、それぞれのロシア語部分が基本的に一致することが分かる。これを踏まえて両者の異同を見ていくと、まず『露中辞典』増訂版序文のロシア語部分に見られる注釈や、辞書に付された文章であることを意識した記述が、『簡明中国語文法』第3版では削除されていることが指摘できる。次に、中国語部分においては、“子”、“了”、“没有”などの音形が異なっていることが分かるが、このような音形の差異が必ずしも通時的変化を示すとは限らず、口語的であるか否かのスタイルの差が反映された可能性も考えられることを確認した。以上を整理すれば、『露中辞典』増訂版序文に改訂を加えて単独で刊行したものが『簡明中国語文法』であると判断できるため、両者は本来一つの資料として研究すべきであることを提案した。

满语、官话与土汉话——清代满洲旗人的语言使用
竹越孝(神户市外国语大学)

清政权迁都于北京(1644年)以后,随着满洲人逐渐被汉化,其母语也就随之演变成为汉语。清朝的历代皇帝对此情况感到可叹,多次发敕令以鼓励满洲旗人积极地学习满语,因此雍正期(1723-1735)以后在北京陆续出版了各种满语教材。这些教材表明,当时满子弟需将汉语作为中介语言而逐步学习满语的文字、发音、语法与会话。本报告通过分析清代满汉合璧会话教材的序言与课文内容而描写出清代满洲旗人的语言使用情况。
通过序言的分析,我们可以看出以下几种事实:一、满语会话教材一般在义学、家塾等私立教育机关使用;二、满洲旗人的母语已变为汉语,他们需将满语为第二语言学习;三、他们需先学习满语本身,然后才学习满、汉两种语言的翻译。同时,通过各课文内容的分析,我们又可以看出以下几种情况:一、满语的老师经常在于不足够的状态;二、满洲旗人需熟悉汉语、满语两种语言,因此有一部分家庭邀请这两种语言的师傅;三、有些满洲人意识到汉语的“官话”、“土汉话”这两种层次,并他们所操作的语言中亦有优先顺序,即:满语>官话>土汉话。

创造跨方言书写系统的尝试:高第丕的“新字”初探
千葉謙悟(中央大学)

 本次报告对美国来华传教士高第丕(Tarleton Perry Crawford,1821-1902)所创制的“新字”加以初步的探讨,并考证“新字”由上海话的书写系统演变到跨方言的书写系统的过程。
本文首先介绍“新字”的概况。“新字”是一种拼音文字,由代表声母的左边和代表韵母的右边而组成。第一次出现“新字”的文献是《新字上海土音》(1854)。“新字”在《上海土音字写法》(1855)中经过了一些修正,初具规模了。其次,本文探讨高第丕移居于山东登州后发表的《配音书》(1872)中所见的“新字”系统。由于上海和登州音系不同,“新字”也随之进行调整。值得注意的是,书中有“登州不用,是中国别处用”的12个“增补音母”。由此推测,这时高第丕心中以“新字”来拼写多处方言的构思已经萌生了。最后,在《教务杂志》上发表的 “A system of phonetic symbols for writing the dialects of China” 上发表的“新字”。“新字”于此面目一新,完全成为书写多处方言的文字系统。

Joseph Rutten (1874-1950) and the promulgation of the Romanisation Interdialectique transcription system for Chinese
Mårten Söderblom Saarela (Academia Sinica)

In the early 1930s, two Catholic missionaries in China—Ernest Jasmin and Henri Lamasse—published a new romanization scheme for Chinese. Called romanisation interdialectique (R.I.), the spelling system was intended to provide an “etymological orthography” for written Mandarin, much like the orthographies of French and English. By encoding Middle Chinese phonological distinctions in their system, Jasmin and Lamasse believed that R.I. could be read out loud in the pronunciation of any Chinese dialect. Their system, Jesuit in origin, won the support of Joseph Rutten (1874-1950), leader of the Belgian Congregation of the Immaculate Heart of Mary (C.I.C.M., or Scheutists). In the late 1930s and then again after the Second World War, Rutten promoted Jasmin’s and Lamasse’s system in various circles both inside and outside China. Rutten’s support lasted until his death in France in 1950. This talk will look at the history of R.I. through the collection of Rutten’s correspondence and notes currently held in Leuven in Belgium. These documents allow us a glimpse into the last years of missionary linguistics in China, a time when just about everybody seemed to want to change the Chinese language.
(ご講演は中国語で行われました)


2023年度中国近世語学会研究集会開催のお知らせ

2023年度の研究集会を、以下のとおり開催いたします。
日時:2023年11月25日(土)*開催日にご注意ください。今回は11月に開催いたします。
場所:場所 中央大学後楽園キャンパス
〒112-8551 東京都文京区春日1-13-27
https://www.chuo-u.ac.jp/access/kourakuen/

内容:小特集、個人研究発表等
小特集の企画、個人研究発表者を募集いたします。10月20日(金)までに、中国近世語学会ウェブサイトの「お問い合わせ」から事務局にご連絡ください。