2017年度研究集会報告

ご挨拶

 寒さの続く毎日の中にも春の訪れを感じるきょうこの頃、会員の皆様にはご清祥のこととおよろこび申し上げます。
 中国近世語学会2016年度研究集会は、12月10日(土)、愛知大学東京事務所で開催され、30人が参加しました。
 午前の個人研究発表では、若手による意欲的な研究発表が行われ、参加者からは様々な角度から質問、意見が出されました。本会は、発表、質疑応答を合わせて1人45分の時間を設けております。大規模な学会では1人の発表者に対してこれだけの時間をとることはなかなか難しいようですが、近世語学会では今後もこのスタイルを維持していきたいと考えています。
 午後は、「小特集:「直訳」と「直訳体」をめぐるワークショップ」を行い、蒙文資料、満文資料、朝鮮資料、欧文資料における「直訳」または「直訳体」的な現象についての報告があり、続く質疑応答の時間にも活発な意見が交わされました。各資料の概要が勉強になっただけでなく、各発表者の独自の視点が更なる問題意識を生み出したことと思います。特に、本会で初めての朝鮮資料に関する報告からは、教わるところが多かったのではないかと思います。
 今年度のニューズレター第2号をお届けいたします。第2号は2月上旬の発送を目標にしておりますが、今号の発送が大幅に遅れましたことを、お詫び申し上げます。

中国近世語学会
会長 内田慶市
2017年3月6日

2017年度中国近世語学会研究総会報告
日時:2017年12月10日(土)10:00〜17:00
場所:愛知大学東京事務所
参加者数:30人

個人研究発表報告
1.「バロの漢語認識に関する一考察—『中国語官話文法』を中心に」
斉燦(関西大学・院)

  本发表的题目是“瓦罗的汉语观研究——以《华语官话语法》为中心”。报告中,我首先对瓦罗的生平及其著作进行了简单介绍,然后从汉语总体特征、文体、语音、语法、句法五个方面分析了瓦罗对汉语的认识。最后是对瓦罗汉语观的概括。我认为,瓦罗的汉语观大致可概括为四点:1)语音上,汉语音节有限,同音字众多,且同音字连读时会发生音变;2)文体上,汉语不但存在高雅、中等、粗俗的文体差别,还存在官话、乡谈的地域差别;3)语法上,汉语可按照拉丁语法划分出八大词类,量词是汉语不同于西方语法的特征;4)句法上,汉语只存在四种句型,两种主动句和两种被动句
  报告结束后,参会的几位教授给我提出了宝贵意见。
关于对汉语中被动句判定的问题,我认为,诸如“我是天主所爱的”这样的句子,虽然表达的是被动意义,但根据句式来说,该句中并无被动标记,所以不能划入被动形式范畴。
  关于传教士关于汉语文体划分的三个层次文体,我认为,高雅文体、中等文体的存在是毫无疑问的,但因粗俗的语言多为口语中使用,是否存在“粗俗文体”还不能断言,因此“粗俗文体”这一名称的表述也许存在问题。西方传教士及外交官等在指称汉语文体(语体)时,均使用了style一词,划分的三层次中确实并未区分文体与语体,因此我暂时采用了“文体”一词,在之后的论文中,我会将“文体”的表述改为“语体”。

2.「『醒世姻縁伝』の擬親族呼称語の指示機能の変化について」
王姝茵(熊本大学・院)

 『醒世姻縁伝』(略称『醒』)において、様々な非親族を呼称する時、親族呼称語が使われる。親族呼称語は、呼称される相手との親族関係を指示する以外に、相手の性別、年齢と年長者への尊敬などを表す意味機能もある。『醒』で、それらの親族呼称語が非親族への呼称語として使われる時、上記の意味機能の中の「尊敬」と「年齢」のという二つの意味機能は変容しているということが先行研究によって指摘されている。しかし、本発表で分析したように、その変容は不均衡なものであり、「年齢」の意味機能が意識的に使用されて「尊敬」の意味機能が強調される親族語もあれば、「年齢」の意味が殆どなくなり「尊敬」の意味だけが強調され敬語機能が強まる親族語もある。また地域によって使い方が異なる呼称語に対して注意する必要もある。
 本発表後、“大嫂”は「施主」を呼ぶ時には、既婚女性という身分を指すか、“大嫂”で「施主」を呼ぶ時に、その呼ばれる人は“素姐”だけかといった質問があった。『醒』では“大嫂”は既婚女性の施主を指しており、それは主に“素姐”を指していると言えるが、今後あらためて詳しい統計をとりたい。
 また、『醒』のすべての非親族を指す親族語を整理し、近世のその他の資料と比較し、近世語で非親族を指す親族呼称語を詳しく究明することは、今後の課題としたい。

3.「『哲学字彙』の新語と中国近代新語への影響」
藤本 健一(大東文化大学)

 井上哲次郎等が編集した『哲學字彙』(1881年、東京大学三学部)と樊炳清編集の《哲學辭典》(1930年、商務印書館)の比較から、日中の近代哲学用語の異同について初歩的な考察を加えた。『哲學字彙』は英和対訳の体裁をとり、日本における専門用語、特に哲学用語の普及に大きく寄与した。《哲學辭典》(初版1926年)は管見の限り中国語最初の哲学辞典であり、収録語に英語を付記し、巻末附録には英語索引がある。
 両辞書で共通する哲学用語は198語で、それは《哲學辭典》が収録する哲学用語1248語の15%にあたり、日中の哲学用語に一定の関連性があると窺い知れる。また、英語に対する訳語という視点でみると、両辞書には460語の共通する英語見出しがあり、そのうち152語には同じ哲学用語が当てられ、一致率は33%に及ぶ。この152語の一部は『哲學字彙』初出の可能性があり、中国語が日本語語彙を借用した例と考えられる。
 一方で、両辞書で共通する哲学用語のうち《哲學辭典》では見出し語に挙げながら、意味解説をほかの同義語に譲る例が少数見受けられる。日本語由来の語彙を意図的に回避する現象の表れとも取れる。
また『哲學字彙』の収録語のうち《近現代辞源》(2010)にも見えるのは268語であり、うち121語(45%)は『佩文韻府』、『淵鑑類函』 にも用例があることから、近代新語においては古典籍に用例のある由緒正しい語が中国語に定着しやすい一面も窺えた。
 ただ『哲學字彙』の訳語の由来、英華字典などとの関連性など今後考察すべき課題が多く残っている。

小特集報告
「直訳」と「直訳体」をめぐるワークショップ
竹越 孝(神戸市外国語大学)

 中国近世語の分野でも近年「文体」の問題が大きくクローズアップされるようになってきた。とりわけ翻訳が関わる資料群の研究にあって、「直訳」と「意訳」の問題は避けて通れないが、この二つの概念だけで完結するほど単純な論点ばかりではない。今回は4人の発表者がそれぞれの資料群に見られる「直訳」ないしは「直訳体」的な現象について報告を行い、その後フロアと意見交換を行った(司会:奥村佳代子)。
 1.蒙文資料:川下崇(首都大学東京・院)「『漢児言語』『蒙文直訳体』をめぐる問題について」
 2.満文資料:竹越孝(神戸市外国語大学)「なぜ『満文直訳体』は存在しないか」
 3.朝鮮資料:伊藤英人(国際日本文化研究センター)「朝鮮半島における中国語受容(翻訳)と表出をめぐるいくつかの問題」
 4.西洋資料:内田慶市(関西大学)「近代西洋人的漢語語体観」
 川下は太田辰夫、田中謙二以来の「漢児言語」と「蒙文直訳体」をめぐる学説史をまとめ、竹越は蒙漢資料と満漢資料の対比から、背後にある言語の構造を示す必要がある場合に「直訳」が生じると説いた。伊藤は朝鮮半島における朝鮮語と中国語の関わりを変体漢文、訓読、吏読、諺解と順を追って紹介し、内田は西洋の宣教師による中国語の文体分類についてその通時的変遷を論じた。報告後の議論は多岐に及んだが、「直訳」「意訳」そして「文体」の概念規定、また関わる言語のタイプによって「直訳」的現象の持つ意味が異なることなどが主な話題となって、活発な意見交換がなされた。

2017年度中国近世語学会研究総会開催のお知らせ

 2017年度研究総会を、以下のとおり開催いたします。

日時:5月27日(土)10時半から17時まで(予定)
場所:関西大学 千里山キャンパス 以文館
内容:個人研究発表など

 
 個人研究発表者を募集いたします。4月20日までに、近世語学会事務局にご連絡ください。(ホームページkinseigo.chu.jpのお問い合わせよりご連絡ください。)

2016年度会費納入のお願い
 (2017年度会費につきましては、総会案内に振替用紙を同封致します。)

 年会費(5000円、ただし院生及び学部生は3000円)をまだ納入しておられない会員の方は、下記の郵便振替にてお納めください。財政が逼迫しておりますので、お忘れなきようお願い申し上げます。

郵便振替 口座番号:00980-6-119965 口座名称:中国近世語学会

中国近世語学会事務局

関西大学 外国語学部 内田慶市研究室
〒564-8680大阪府吹田市山手町3−3−35
Tel: 06-6368-0431

ホームページ: kinseigo.chu.jp