2014年度研究総会報告及び2014年度研究集会開催のお知らせ

日時:2014年6月7日(土)10:30〜16:00
場所:愛知大学名古屋キャンパス(ささしまキャンパス)

研究発表報告

.「ハーバード大学燕京図書館所蔵『問答篇』について」
  氷野歩(関西大学)

 本報告ではハーバード大学燕京図書館蔵『問答篇』の書誌を紹介するとともに、書き込みの分析を行った。『問答篇』や『語言自邇集』に見られるいくつかの特徴的な語彙に着目し、燕京本での扱いを分析したところ燕京本の大半が『自邇集』に一致するも『問答篇』のまま書き換えられていない箇所も多数残されていることが明らかとなった。また燕京本の書き込みが『自邇集』とも『問答篇』とも異なる箇所を分析した結果、これらは『問答篇』から『自邇集』で書き換えられている箇所にのみ見られ、燕京本だけが他版本と異なるという例はなかった。このように燕京本は『問答篇』と『自邇集』の中間に位置づけが可能な内容であることが明らかとなったが、燕京本の書き込みが『自邇集』出版後のものであった場合『問答篇』が当時『自邇集』の代わりに利用されていたことを示す資料となる。ただし燕京本の書き込みが『自邇集』以前のものであれば、英国領事館関連の資料である、或いは『自邇集』編纂関係者により手が加えられた版本であるという可能性も十分考えられる。
 質疑応答では今回分析が不十分であった音韻関連の書き込みや『自邇集』第2・3版との対照について多数ご意見をいただいた。これらを主な課題とし、引き続き燕京本の全容解明に努めたい。

2.『旧本老乞大』における語気助詞について
  川下崇(首都大学東京)

 本発表では、古く朝鮮半島で用いられた漢語課本『旧本老乞大』を取り上げ、そこに見られる語気助詞について、先行研究を踏まえながらの考察を試みた。今回、語気助詞としては、「者、呵、(時)、裏、那、麽、咱、也、也者」を取り上げた。
 本発表では、各々の語気助詞の用例を句中での用例と句末での用例に分類し、分析を試みた。また、『旧本老乞大』は会話形式でストーリーが展開する漢語課本であるが、全百六話中の第八十五話から第九十五話にかけては、会話形式でない文体で書かれている。非会話形式部分の異質性については、先行研究でも指摘されており、後から挿入されたともいわれている。本発表では試みに、この会話形式部分と非会話形式部分とで、語気助詞の用例に違いが現れるかについても考察した。
 しかしながら、非会話形式部分は全部で十一話分あるに過ぎず、質疑においては、単純な比較は非会話形式部分の分量が少ない点や、非会話形式であるが故の用例の違いがあるため、難しいことが指摘された。また、非会話形式の文体については、『朴通事』にも多く見られ、参考になるかもしれないという指摘もあった。また、語気助詞「也者」は、全体でわずかに6例しか見られないが、そのうちの5例が非会話形式部分に現れている点については引き続き考えを深めていく余地があるとの指摘があった。

3.『新興語法としての“着”―日本語からの翻訳を中心に』
  稲垣智恵(関西大学)

 近代,特に20世紀以降助詞“着”は以下の特徴を持つようになったと考えられる。
1)状態性の強い動詞の後ろに置かれる。
2)目的語は抽象的なものであることが多い。
3)“着”を付けなくても意味上大きな違いがなく、文章が成立する。
4)“一直”と置き換えることが可能な場合が多い。
 今回の報告では,こうした近代以降“着”が持つようになった「新興語法」としての用例について,その日本語との関係を探った。
20世紀初頭の日本語からの翻訳文献における“着”の用例は,今回調査した作品の中に全958例見られたが,そのうち,知覚動詞を始めとする状態動詞や関係動詞,名詞との兼類詞に“着”が付着する例は,126例見られた。そのうち,目的語に抽象的なものをもつ用例は全41例。“喜歡着自己的美麗起來(美しくなつたのを喜んでゐる)”などのような用例がある。日本語の「~ている」に当てられる例も見られるが,それ以外の例もあるため,関係性は現段階では明示できない。
 こうした訳文に現れる例には,特に1900~1910年代の用例中には,方言や,仮定用法としての“着(著)”のように,中国語が本来持つ“着”の用例も見られる。今後は外来語の影響だけでなく,こうした例と新興語法としての“着”の関係についても詳しく調査していく必要がある。また特に“着”の後置成分についても調査を進めたい。

4.助詞“是呢”について
  竹越 孝(神戸市外国語大学)

 本発表では、清代の満漢対訳文献に見られる“是呢”という文末助詞を対象として、諸テキストに反映した消長の過程とその理由を考察した。
 “是呢”は、満洲語文法書では『満漢字清文啓蒙・清文助語虚字』(1730年)、満漢合璧会話書では『満漢成語対待』(1702年)から使用例が確認され、19世紀中葉までにほぼ姿を消していたと思われる。初期の文献において、“是呢”は聞き手に対する婉曲な願望を表す満洲語の終止形語尾 -cinaの訳語として用いられる例が圧倒的に多いが、時代が下るにつれて、希望を表す語尾 -kiniや推量を表す終助詞dereに対応する例も増えてくる。これは、“是呢”の意味が聞き手に対する願望から話し手自身の希望、さらには推測へと拡張したためと解釈され、“罷”(=“吧”)における意味変化と並行する。中国語の訳語を選ぶ側から見れば、この傾向は“是呢”と“罷”、“罷了”などとの境界が曖昧になったことを意味するものであり、結果として“是呢”は一つの意味場の中で独自の地位を獲得できずに姿を消したのではないかと推定した。

総会報告
1.新しい理事の選出
ここ十年ほど、中国近世語学会の運営は、佐藤を会長とし、現在の理事―内田慶市会員(関西大学)、大塚秀明会員(筑波大学)、植田均会員(熊本大学)、大島吉郎会員(大東文化大学)、―が担当してまいりました。しかし、学会の今後の活動を考えますと、どうしても若返りが不可欠と思われます。ただ、一度に若い人たちと入れ替わると、事務の引き継ぎなどで混乱を招くことになるでしょうから、徐々に入れ替えを行っていこうと考えています。
 そこで、中国近世語学会の若返りを実現する一環としまして、現在の理事に加え、新たに、山田忠司会員(文教大学)、竹越孝会員(神戸市外国語大学)、塩山正純会員(愛知大学)、千葉謙悟会員(中央大学)の4名の先生方に理事になっていただくようお願いし、ご本人の快諾を得ましたので、総会に諮り、承認を得ました。

2.今後の予定
本年度の研究集会は、12月13日(土)に愛知大学東京事務所にて、来年の研究総会は、2015年6月6日(土)に関西大学にて、開催されることになりました。

2014年度中国近世語学会研究集会開催のお知らせ

 2014年度の研究集会を、以下のとおり開催いたします。

日時:12月13日(土)10時半かから17時まで
場所:愛知大学 東京霞ヶ関オフィス
内容:小特集「官話音研究の資料と問題点」、個人研究発表

 先に2011年度研究集会で好評を得ました小特集「官話の虚像と実像」に次いで、小特集第2弾として「官話音研究の資料と問題点」を組み、各分野の研究者に大まかな資料の概観と諸問題についてご紹介いただく予定です。
 また、個人研究発表者を募集いたします。9月30日までに、下記近世語学会事務局にご連絡ください。

会費納入のお願い

 年会費3000円をまだ納入しておられない会員の方は、下記の郵便振替にてお納めください。財政が逼迫しておりますので、お忘れなきようお願い申し上げます。